幹細胞は自分の分身を生み出す「自己複製能」と多種多様な細胞を生み出す「多能性」を備えており、「ニッチ」と呼ばれる微小細胞環境に存在することが知られている。そこで、我々は本研究において、皮膚のリモデリング過程における造血幹細胞の動態を検討し、幹細胞の普遍的特性に関わる分子基盤を明らかにする。すなわち、新生児マウスより採取した角化細胞と線維芽細胞をGFP陽性造血幹細胞とともに成体マウスの背部に移植することにより、皮膚の再構築と造血幹細胞との相互作用を観察した。 具体的には、緑色蛍光蛋白(GFP)トランスジェニックマウスに抗ガン剤とG-CSFを投与した後、骨髄より造血幹細胞を採取し、これを新生児マウスより採取した角化細胞と線維芽細胞とともに成体マウスの背部に移植することにより、表皮と附属器のリモデリングを試みた。その結果、線維芽細胞様GFP陽性細胞が真皮内に多数存在していることが確認された。さらに、これらの細胞の生物学的特性を免疫組織学的に検討したところ、α-smooth muscle actin(α-SMA)陽性の筋線維芽細胞であることが判明した。この所見は、皮膚の創傷修復過程で出現する筋線維芽細胞が、骨髄細胞由来であることを示唆する点で画期的な結果であろう。筋線維芽細胞は創面の収縮に重要な役割を果たしていると推察されているので、この骨髄由来α-SMA陽性細胞の生物学的特性を検索中である。 従来の報告では、骨髄から血液細胞以外への分化は非常に低い割合であり、組織修復への関わりは不明であったが、これに対して我々が今回試みる戦略は、これらの欠点を克服できる点で革新的と言えよう。さらに我々は骨髄細胞を培養ディッシュに付着して生育させることにより、骨髄間質細胞を用いて同様の検索を実施しているので、近日中にその成果が判明するものと期待される。
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