ケロイドは、ヒトにおいてのみ発生し、動物モデルが存在しない。また、ケロイド組織の線維芽細胞を培養系に移すと生体組織では特徴的に認められるマトリックス蛋白の発現増加が失われるという性質がある。そのため試験管内での実験が非常に困難であり、よく知られた疾患であるにもかかわらず病因、病態解明が全く進んでいない疾患の1つである。 申請者らは病変部組織を用いて多くの分子の発現を網羅的にマイクロアレイで解析するという独創的な研究を行った。その結果、病変部に「組織幹細胞の異常」が存在する可能性が病因として指摘できた。すなわち、ケロイドでは、軟骨、骨への分化を示す細胞が増殖しており、これらの異常分化細胞が太いコラーゲンやヒアルロン酸などの細胞外マトリックスを産生するという解釈を可能にしたものである。さらに、ヒトケロイド培養細胞をヌードマウスへ移植することでケロイドモデルの作成を試みたところ、正常真皮線維芽細胞と比較して細胞外マトリックスを豊富に産生し組織重量が増加するようなケロイドモデルを確立することができた。今後はこのモデルを用い、マイクロアレイで判明したケロイド発生病理に関与していると考えられるさまざまな分子について強制発現や発現抑制を行うことで、ケロイド治療へのアプローチを模索する計画である。 また、申請者らは組織幹細胞の分離同定を軟骨膜細胞において試み、成功させた。「組織幹細胞の異常」という概念で真皮疾患の病態を説明するため、さらなる研究を続けている。
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