研究概要 |
本研究は、長期隔離飼育ストレス負荷動物に特徴的に発現する攻撃行動を情動障害動物モデルとして用い、攻撃性亢進に関与する脳内因子の単離同定とその脳内生理機能の解析により、ヒトの"キレる"と呼ばれる敵意性や攻撃性の発現に関わる脳病態生理と脳内分子神経機構を実験的に解明することを目的とする。実験では雄性マウス(3週齢)を1週間群居飼育後、群居(GH,4匹/ケージ)および隔離飼育(IS)群に分けて更に4〜6週間飼育した後、行動薬理学的及び生化学的評価を行った。先の我々の研究ではGABA_A受容体(GABA_A-R)陽性修飾因子アロプレグナノロン(Allo)の脳内レベルの低下に伴うGABA神経伝達障害がIS動物の異常行動に関与することが示唆されたことからGABA_A-R遺伝子発現変化を精査した。その結果、IS群ではα1,α2及びγ2サブユニット遺伝子発現量の低下とα4及びα5サブユニット遺伝子発現量の上昇が認められた。またこれらの変化に伴ってジアゼパムなどGABA_A-Rを介して作用するベンゾジアゼピン系薬物に対する反応性の低下も認められた。一方、IS及びGH動物の脳RNAを用いたDNAアレイ解析から、ISによりγ2サブユニットと結合するアンカー蛋白GABA_A-R-associated protein-like 2をコードする遺伝子の発現量が低下することが明らかとなり、GABA_A-R機能低下とIS動物の異常行動発現との関連性が更に示唆された。またIS群では恐怖をはじめとするストレス誘発行動に関連する最初期遺伝子early growth response-1(Egr1)の発現量が有意に増加し、逆に神経栄養因子neurotrophin-4/5mRNAが低下した。これらからIS動物の異常行動の発現にはGABA_A-Rの機能障害とAllo、Egr1および神経栄養因子系の量的変動が関与する可能性が推察された。
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