平成19年度までに得た結果から、ラットへのレプチンの脳室内投与量(3μg/5μl)そのものは通常条件では不安行動や一般行動量に影響を与えないことがプラスメーズテストにおいて確認された。また平成19年度には摂食障害患者を念頭に設定した1日2時間の時間制限給餌行うと、7日目にはラットの不安が減弱してオープンアームに出やすくなり、一般行動量も増加することを確認した。その段階で同量のラットレプチンの脳室内投与量を行うと、ラットの不安行動が増強し、一般行動量も減少した。 これらの結果を臨床的知見にあわせて解釈すると、制限給餌(ダイエット)を繰り返すことが生物学的に不安の減少と行動量の増加を生じ、これは痩せ願望や肥満恐怖などの心理的要因とは関連しない。また、このような不安の減少はダイエットのさらなる強化因子となり得、過活動を生じることも臨床知見と矛盾しない。ダイエット後にレプチンを投与すると不安が増強することは、摂食障害の治療で食事の再摂取を行うことにより体脂肪が増えレプチンが放出されると生物学的に不安が生じることになる。これは摂食障害の治療抵抗性の原因が痩せ願望や肥満恐怖などの心理的要因のみではなく、体重増加に伴うレプチンによる生物学的な不安の増強が肥満恐怖などの心理面で表出され、治療への抵抗に結びつくことも考えられた。今回の研究結果からは、摂食障害の治療過程でレプチンの増加による生物学的不安に対処することが治療に重要である証明ができた。栄養改善時のレプチンの不安惹起作用をジアゼパムのような抗不安薬が抑制できるのかなどを今後我々の確立したラットモデルを使用し検討することが、摂食障害の合理的薬物療法の確立に結びついていくと思われる。
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