研究概要 |
近年、アルツハイマー病などの神経変成疾患では、臨床症状だけではなく、神経伝達物質やその受容体などの機能分子の変化を核医学の手法を用いて捉えることよる定量的評価が行われている。精神疾患である統合失調症においても死後脳を用いた研究により、ニコチン受容体α7サブタイプ(α7nAChR)の関与が示唆されているが、現在α7nAChRを非侵襲的に捉えるイメージング剤は無く、生体内での変化を画像化することはできない。そこで、α7nAChRの核医学イメージング剤の開発を試みることとした。 本年度は、最近α7nAChRに高い親和性と選択性を持つことが報告された化合物である(R)-3'-(5-bromothiophen-2-yl)spiro[1-azabicyclo[2.2.2]octane-3,5'-[1',3']oxazoHdin]-2'-one(Br-TSA)をもとに放射性ヨウ素標識体(R)-3'-(5[^<125>I]iodothiophen-2-yl)spiro[1-azabicyclo[2.2.2]octane-3,5'-[1',3']oxazolidin]-2'-one,([^<125>I]I-TSA)の開発を試み、α7nAChRイメージング剤としての有効性について検討を行った。まず、ラット脳ホモジネートを用いてI-TSAのα7nAChRへの親和性を検討したところ、Ki値は0.54nMとなり高い親和性を持つことが示された。さらに、Br-I交換反応により、放射性ヨウ素標識体の合成を試み、放射化学的収率55%で[^<125>I]I-TSAを合成することに成功した。そこで、マウスを用いて[^<125>I]I-TSAの体内動態を検討したところ、静脈投与後早期に脳へ高く取り込まれた(4.42%ID/g)。また、受容体の多い海馬からの消失は遅く、受容体の少ない小脳からの消失は早いことが認められ、投与60分後には海馬/小脳比は1.8に達した。しかしながら、非放射性のI-TSAを[^<125>I]I-TSAと同時投与したところ、海馬への放射能の集積は有意に低下せず、非特異的結合が高いことが示唆され、α7nAChR in vivoイメージング剤として適さないことが示された。今後、構造の最適化を行うことにより、非特異的結合の少ないイメージング剤の開発を行う予定である。
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