研究概要 |
目的 本研究では温熱処理あるいは放射線照射後に誘導されるアポトーシスシグナル伝達系を抑制しているヒートショックタンパク質(Hsp)を分子制御し、温熱・放射線に対するがん細胞の感受性を高めることを目的とする。Hsp27、Hsp70、Hsp90はアポトーシス実行因子であるCaspase-3の活性化を誘導するApoptosome(ApaS-1/Caspase-9/Cytochrome C複合体)の形成を阻害することが最近報告されつつある。従って、Hsp27、Hsp70、Hsp90を分子制御することにより、温熱あるいは放射線誘導アポトーシスを増強することが可能となる。既に細胞死/細胞生存にかかわるシグナル伝達系で中心的にはたらくPI3-Kの特異的阻害剤であるLY294002の温熱・X線増感効果を明らかにし論文として発表した(Int J Oncol,2006)。さらに予備実験でMAPキナーゼの阻害剤であるPD98059もHspの阻害効果と温熱増感効果があることを見出したので本研究で詳しく解析した。 方法 (1)ヒトのp53伝子欠損肺がん細胞H1299へ正常型および各種変異型p53伝子を導入し、これらを本研究に用いた。得られた結果がp53遺伝子に依存しているかが判断できる。 (2)生存シグナルの阻害剤(MEK阻害剤PD98059)による温熱・X線増感効果をコロニー形成法で調べた。 (3)アポトーシス誘導がPD98059により増強されるかどうかをアポトーシス小体検出法あるいは細胞生存関連タンパク質の蓄積誘導をWestern blot法で調べた。 結果 1.PD98059によって細胞の温熱感受性はp53遺伝子型に依存せず増感された。 2.PD98059によって温熱誘導アポトーシスはp53遺伝子型に依存せず増強された。 3.温熱処理後、survivinの蓄積誘導が見られたが、PD98059によりそれらは阻害された。 4.PD98059は温熱によるhsp27、hsp70の蓄積誘導を阻害した。 考察 PD98059はps53非依存的塗温熱誘導アポトーシスの増強をもたらし温熱増感剤として有用であることが示唆された。
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