研究概要 |
ハエ幼虫の抗菌作用を実験する前に、ハエ幼虫による潰瘍治療を行った感染創から同定された細菌の解析を行った。最も多く同定されたグラム陽性菌、陰性菌は、黄色ブドウ球菌と、緑膿菌であった。この結果から、これら2種類の細菌を用いて、抗菌作用の実験を行うことは臨床的に意義があると判断した。 まず、無菌状態で飼育したヒロズキンバエの幼虫と、非無菌状態で飼育したヒロズキンバエ幼虫の黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用を比較した。ハエ幼虫から検体を採取し、細菌浮遊液混ぜ培養し、3,6時間後そのコロニー数を比較した。非無菌状態で飼育した幼虫から採取された検体は、有意な抗菌作用を示した。 次に、無菌ハエ幼虫を黄色ブドウ球菌、および緑膿菌それぞれ一種類の細菌に暴露させ、その抗菌作用の発現を観察した。いずれの細菌に暴露させた場合にも、暴露させた菌量依存的に、抗菌作用を示した。さらに、暴露時間を変化させ、同様に抗菌作用を比較した。いずれの細菌に暴露された場合でも、暴露後24時間で強い抗菌作用を示し、暴露後36時間では、その抗菌作用は消失した。また、緑膿菌に暴露させた場合には、暴露後12時間で抗菌作用を示したが、黄色ブドウ球菌の場合では抗菌作用は認められなかった。 抗菌作用を示した物質を同定すべく、mRNAレベルでの解析を行ったが、期間中に新たな結果を得ることは出来なかった。 ヒロズキンバエの幼虫が感染された環境下に於いて、新たな抗菌作用を発現することが証明された。新たに誘導された抗菌作用も、緑膿菌には無効であり、潰瘍治療中にグラム陰性桿菌感染には効きにくいということを証明する結果となった。さらに、その抗菌作用はある一定の期間の後に消失することも証明され、臨床上3〜4日に1回、感染創からハエ幼虫を交換していることの意義を証明する結果となった。
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