本年度の目標は爆発的な増殖力と長期生存能を有する肝上皮性幹様細胞を実際に大量に培養して細胞の動態の観察をすること、この細胞にマーカーを組み込み生体内でどのような細胞に変化するかをみること、そしてこの細胞に増殖因子を投与してどのような変異をするかを観察することにあった。従来はφ6cm、深さ1cmのコラーゲンコーティングしたディッシュに細胞を播種して継代を重ねてきたが、本年度はφ15cm、深さ4cmのポリエティレンイミンでコーティングした大型ディッシュに播種を試みたところ、3日後には底面いっぱいに増殖することを確認した。また、肝上皮性幹様細胞にVEGF(vascular endothelial growth factor)のリセプターであるFlk-1が強発現していることを免疫染色により確認したので、5000/plateの細胞数で以下の6種類のメディウムで培養VEGF効果を検討した。1.DMEMのみ、2.DMEM+VEGF、3.DMEM+FBS、4.DMEM+FBS+VEGF、5.DMEM+FBS+EGF、6.DMEM+FBS+EGF+VEGF。その結果、DMEM+VEGFで培養した細胞から樹枝状の血管様構造が形成され管腔構造も認められた。しかし、他のメディウムでは全て扁平な細胞巣が形成された。VEGFにより血管様構造が誘導されたことはこの細胞に対し適当な他の増殖因子を共作用させることにより血管構築を伴った人工肝臓作成の可能性が示唆された。更に、GFP(green fluorescent protein)遺伝子を組み込んだウィルスベクターを作成し、肝上皮性幹様細胞にGFP遺伝子導入を試みたところ、GFP蛋白を発現している細胞を得ることが出来た。これをクローン化し、ラット肝臓に投与して肝のどの部位に生着しどのような細胞に変化して行くかということの検討を開始した。
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