昨年度は相転移温度40℃のリボソームを実験的に作成し得たことから、本年度はそのリボソームにアドリアマイシンなどの抗がん剤を封入し、温熱治療とともに投与することで、加温中心から遠心性に抗がん剤を分布させるべくラット脳腫瘍モデルでの実験を計画した。色彩計によりアドリアマイシンの黄色調を計測することでアドリアマイシンが腫瘍内でどのような濃度分布で存在するかを実測することと、コンピュータシミュレーションによって計算されたラット脳腫瘍の組織内温熱治療時の腫瘍内温度分布を比較することを予定した。しかしながら、アドリアマイシン封入リポヅームが腫瘍内にかなり大量に放出され、加温中心にきわめて高濃度の黄色調ができたため、その濃度を計測することができなかったことと周辺の40℃し近辺の濃度がかすんでしまい正確なアドリアマイシン濃度分布を見ることができずに終わった。一方、ラットの腫瘍内温度分布は比較的均一な同心円状の温度シミュレーションが得られた。これは、人の脳とことなり、大きな血管や脳室などの温度分布を歪めさせる要素がラット脳内には少ないためと考えられた。 本年度のもう一つの実験である蛍光色素マーカー封入リボソームは、封入するマーカーであるフルオレセインナトリウムが封入過程で安定せず充分な量が入らず、充分な検討はできなかったが、40℃で緑色のリボソームが黄色に変色することが観察され、あとは動物内への注入実験を残すのみとなった。 本研究の最終ゴールである臨床への応用には安定したリボゾーム内抗がん剤封入技術の確立とラット脳腫瘍モデルでの安全性実験を確立させることであるが、基礎データはまだまだ不十分である。この間に、リボソーム封入を行っていないアドリアマイシン動注温熱化学療法の安全性を目的としたPhaseIスタディは症例を重ねることができた。我々の予想どおり、温熱治療中のアドリアマイシン動注では腫瘍内に高濃度に抗がん剤を取り込ませている例を経験することができている。さらにアドリアマイシン封入リボソームによるtargeting thermo-chemotherapyの確立を目指したい。
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