今年度は、まず実験対象となる動物モデルの安定した作成を中心におこなった。9週令のヌードマウスの側腹部皮下に凍結保存していたヒト大腸がん株(CO-3)を移植し、生着・成長を確認した。そののち、この生着した皮下の固形腫瘍を摘出、他のヌードマウスにこの腫瘍の一粒移植をおこない約2-3週間で長径10mmの皮下腫瘍の生着を確認した。この腫瘍は皮下移植から順調に増殖・増大し続け、約15-20週で全身の衰弱をきたし腫瘍死をきたす。しかし移植から約5週間が過ぎると腫瘍の中心部は肉眼的に壊死性変化をきたしており、本モデルをもちいた治療実験を計画するには移植から5週間以内で評価終了できるよう実験した方が妥当であろうと思われた。つぎにこのヒト大腸がん皮下移植実験モデルが実際のMRI検査により評価可能かを確認した。すなわち本実験では評価対象となる皮下腫瘍が、最大径でも20mm未満であり非常に小さいため、MRIでの空間分解能や解析能の評価が不可欠であると考えたからである。1.5テスラのMRIをもちいたところ、画像上腫瘍の評価は十分可能であることがわかった。しかし同時に腫瘍を側腹部の皮下に移植すると、マウスの呼吸により画像にアーチファクトを引き込みやすいこともわかった。そこで呼吸の影響の受けにくいと思われるマウスの大腿部皮下に移植するようにしたところ、呼吸性移動がほとんど無視されうまくいくことがわかった。さらにマウスの尾静脈よりMRI用造影剤であるガドリニウムを全身投与したところ、皮下移植された腫瘍は主として腫瘍辺縁部に増強効果を示すことがみられた。これは腫瘍中心部が肉眼的壊死をきたしている所見に矛盾していないと考えられる。よってこの実験モデルを用いた実験系の妥当性が証明された。次年度は温度感受性ステルスリポソームに抗がん剤を封入したものを作成し、このモデルに投与していく予定である。
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