カニクイザルES細胞ではマウスES細胞に比較して、その増殖が遅く、平坦なコロニーを形成し、この特徴はむしろヒトES細胞に似ていることが明らかになった。 カニクイザルES細胞にレチノイン酸を用いる方法とNogginを用いる方法の両者で神経系細胞への分化誘導が可能であった。サルES細胞を分化誘導培養系にうつし4日間培養すると、胚様体(embryoid body ; EB)を形成した。この胚様体にレチノイン酸を2回添加し、あるいはNogginを添加しさらに培養8日目からは血清を含まない神経細胞専用の培養液にて培養した。培養10-12日目程度から軸索をもつ神経細胞様の細胞が数十%程度出現する。この分化誘導した細胞は神経幹細胞のマーカーであるネスチンと神経接着因子(neural cell adhesion molecule ; NCAM)が陽性で、神経系の前駆細胞に分化した。この分化誘導した細胞はGFAPやGalcなどのグリア系細胞やオリゴデンドリサイト関連の特異蛋白は殆ど発現せず、大部分が神経細胞に分化した。この細胞はカルシウム指示試薬であるFluo-3-AMの存在下にin vitroで脱分極刺激を加えると細胞外からカルシウムイオンの流入が認められ、神経細胞としての電気生理学的特性を持つことが示された。分化誘導した神経細胞はHB9やIslet-1と呼ばれる運動神経に特異的な転写因子を発現しており、この細胞の多くは運動神経であり、運動機能障害動物への移植治療への応用が可能と考えた。この細胞はSDF1の添加によりin vitroで遊走を行い、NCAMに反応して軸索の伸長が起こることが示唆され、現在確認の実験を行っている。
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