まず腰部脊柱管狭窄症のマウスモデルを新規に作成し、その作成方法を確立した。リタイアしたC3Hマウスを用いてペントバルビタール麻酔下にL5-L6腰椎椎弓切除を行った。その上下端に約1mm大のシリコンゴムをおき、馬尾を圧迫して脊柱管狭窄症モデルを作成した。マウスは術直後より跛行を呈しており、モデルマウスとして活用できることを確認した。この歩行状況をビデオ画像に撮影し、歩行解析を行った。両下肢とも引きずり歩行で、手術直後は両下肢とも完全麻痺となるが、その後、麻痺は徐々に回復傾向を示し、手術後1週間目に不完全麻痺を呈する状態に変化した。麻痺の回復はBBBスコアの平均評点が15.5点まで回復したが、それ以上は回復しなかった。 次にアデノウイルスベクターの馬尾神経への導入実験ではAdenoviral vectorsにlacZを組み込んだものを作成した。その原理はCre/loxP系アデノウイルスベクターによる遺伝子発現ON/OFF制御法を利用する方法である。二つのloxP配列を持っAxCALNLNZと特異的組み換え酵素Creを持っAxCANCreを作成し、これらを等量にして混合し、坐骨神経に注射により直接感染させると目的遺伝子であるLacZ遺伝子の発現をみることが可能であった。LacZ遺伝子発現解析はX-gal染色、beta-galactosidase染色で凍結切片を作成して行った。遺伝子導入後のマウス大腿神経起始部では遺伝子の発現が確認されたが、馬尾神経での遺伝子発現は認められなかった。アデノウイルスベクターを導入したマウスでの神経麻痺の程度はBBBスコアの平均評点が16.2点であり、コントロール群と有意差はなかった。 以上のことから、脊柱管狭窄症のモデルマウスでは馬尾神経への遺伝子導入が確認できなかったものの、大腿神経起始部における遺伝子発現を確認することができた。
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