シナプス形成期の未成熟脳が麻酔に暴露されると広範囲に細胞死が起こることが、報告されている(J Neurosci 2003;23:876)。ある種の麻酔の組み合わせで、NMDAレセプタの遮断とGABAレセプタの賦活が同時に生じると神経細胞の活動が異常に抑制され、その結果、細胞死に至るという機序が推測されている。しかし、この知見に関する報告はまだ極めて少なく、機序も推測の域を出ない。 本研究ではグリア細胞を排除した選択的初代神経培養系を確立し、上記知見を追試するとともに、その機序について検討を行った。 妊娠18日のWisterラットから胎児を摘出し、開頭の後に大脳を摘出し、前脳を分離し、得られた神経細胞を培養皿上に散布した。培養液はNeurobasal mediumを用い、グリア等を排除した選択的神経細胞培養を使用した。 まず、NMDA拮抗薬MK801とGABAの組み合わせで、負荷1日後の神経細胞死を評価し、培養14日後の細胞で神経細胞死が有意に助長されたが、それより前の7日後、後の21日後では有意な変化は認めなかった。吸入麻酔薬のイソフルランでも同様な結果が見られ、培養神経細胞でも麻酔薬に障害作用がある事、さらにはその障害作用にはtime windowがある事を確認した。次に、細胞死がアポトーシスとネクローシスかを鑑別するため、蛍光顕微鏡(propidium iodide、Ho342染色)による形態学的解析を行った。結果、ネクローシスと比較して、アポトーシスが主に起こることが証明された。 以上より、選択的初代神経培養系においても、NMDAレセプタの遮断とGABAレセプタの賦活でtime windowを有した神経細胞死が生じ、これは主にアポトーシスの進行によることが確認された。
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