研究概要 |
マウスをモデル動物に選び、体内時計の中枢の視交叉上核(SCN)における時計蛋白質の発現変化、肝臓、腎臓、心臓、筋肉などの臓器別の遺伝子発現の概日リズムが麻酔そのものまた敗血症性ショックなどの全身性ストレスでいかに修飾を受けるかを分子生物学を援用して明らかにすることが目的であった。 平成18年度には、研究初年度に、培養細胞で確立した時計素子遺伝子の発現量の日内変化検出法をマウスに適応して検討した。サイトカインの影響を検討する為の予備実験も行った。 12時間ごとの明暗周期に同期させたマウスの視交叉上核、肝臓、腎臓より4時間毎にRNAを抽出し、BMAL,Perl,Per2,Clock,Cryの発現とその変化を半定量的リアルタイムRT-PCR法を用いて検討した。時計素子遺伝子の日内変動が過去の報告と矛盾なく観察できた。次にイソフルレンを用いてマウスに全身麻酔を施し遺伝子の発現の検討を行った。遺伝子発現の変化の周期に変化は見られなかったが、遺伝子発現の強度つまり振幅は抑制を受ける傾向が観察された。臓器間で特別な差異は検出できなかった。この実験事実は、全身麻酔薬が時計遺伝子の発現に影響を与えることを示唆するが、薬剤の直接的な影響なのか、麻酔状態に起因する変化なのかに関しては今後の検討が必要である。 さらに全身性ストレスの影響を検討する目的の為の予備検討を培養細胞を用いて行った。炎症性サイトカインTNF-alphaで培養細胞を処理して、時計素子遺伝子の概日変動が影響されるかを検討した。NIH3T3細胞を用いた実験系ではサイトカインによる影響が有意には検出できなかった。確実なエビデンスを得るためにはマウスを用いた検討を行う必要がある。
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