研究課題
細胞死を防御する蛋白質を投与して、内耳障害の予防・治療に応用する蛋白治療を開発した。ミトコンドリアからのチトクロームcの放出を抑えるBcl-XLの三つの水素結合を除去したanti-apoptotic蛋白(FNK)を作成し、これにHIV/Tat蛋白のProtein Transduction Domain(PTD)をくっつけて細胞内に導入できるようにした(FNK-PTD)。まずこの蛋白にmycをtagとして付けたものをモルモットの腹腔内投与し、1-6時間後に断頭し、蝸牛を固定し、パラフィン切片を作成した。その後Mycに対する抗体を用いた免疫染色により蝸牛での発現について検討した。その結果、投与1時間後からこの蛋白は蝸牛内に出現し、3時間後に発現量がピークとなり、6時間後には著明に減少することがわかった。発現部位は、主にコルチ器、ラセン神経節、蝸牛側壁であった。つぎにFNK-PTDが蝸牛有毛細胞の細胞死を予防できるかどうかについて検討した。カナマイシン((1)200mg/kg、または(2)400mg/kg)およびエタクリン酸((1)40mg/kgまたは(2)50mg/kg)によりモルモットの蝸牛有毛細胞を広範に障害し、この前後に数回、FNK-PTDまたは生食を投与した。1週間後にABRを測定し、断頭後蝸牛を固定し、surface preparationをロダミン染色し、蛍光顕微鏡下で残存有毛細胞の数をカウントした。その結果FNK-PTD投与群では(1)および(2)のどちらの障害においても有意にABR閾値の上昇を抑制した。細胞カウントでは、(1)の障害条件では内外有毛細胞ともに有意に細胞死が抑制していた。(2)の障害条件では障害が強く、外有毛細胞は治療・未治療とも全部死滅したが、内有毛細胞は治療群で有意に細胞死が抑制されていた。この結果はFNK-PTDが蝸牛に発現して、有毛細胞の細胞死を抑制するように働くことを示している。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
Cell Death and Differentiation 12
ページ: 384-394
Biochemical and Biophysical Research Communications 330
ページ: 850-856