【目的】近年、難聴児の発見が低年齢化し、言語発達への介入方法の選択にもより高い客観性が求められるようになってきている。難聴児が示す言語発達の経過と様相は非常に多様であり、聴能訓練が順調に推移した症例が必ずしも良好な言語発達の経過をたどるとは限らない。ところで、難聴児における学習障害の合併率は10%前後と報告されており、こうした学習に対する困難が存在すると、難聴児の言語発達には大きな影響を受ける。学習障害と総称されるものの中核症状である発達性読み書き障害などに対する知見は、近年非常に深まってきており、特異的な対策も存在する。にも関わらず、発達性読み書き障害の問題を学齢期の前にスクリーニングすることはきわめて困難であり、難聴要因を加味して検討することはさらに困難である。そこで今回就学前児が文字の習得にあたって、まず一般児がどういった認知特性の変化をたどるかを検討し、障害例との比較から就学前介入のあり方についても検討を加えたので報告する。 【方法】コントロール群としてA市私立保育園に在籍する4歳3ヶ月から6歳2ヶ月までの就学前児37名を対象とした。実施した検査はレイベン色彩マトリックス検査(setA)、ベントン視覚記銘力検査、かな音読書字検査(宇野2002に準拠)、さらに音韻分解抽出能力と音声言語の長期記憶の評価バッテリーを作成し実施した。障害群では就学前に書字困難の検出が可能であった2症例を対象とした。 【結果】音韻分解抽出能力は比較的ばらつきが大きく、標準誤差が大きかった。ベントン視覚記銘力検査では平均値が低下したが、評価方法を工夫することによって視覚認知能力の評定が可能であった。音読及び書字未獲得症例では、音韻分解抽出課題の得点低下を認めたが、音韻分解抽出課題の得点の低い児であっても文字習得できている症例も存在した。
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