言語習得期前難聴児が示す言語発達の経過は非常に多様であり、聴能訓練が順調に推移した症例が必ずしも良好な経過をたどるとは限らない。難聴児における学習障害の合併率は10%前後と報告されており、その中核症状である発達性dyslexiaが存在すると、難聴児の言語発達には大きな影響を受ける。しかし学齢期の前にスクリーニングすることはきわめて困難であり、難聴要因を加味して検討することはさらに困難である。よって今回(1)健聴就学全児を対象として発達性dyslexiaのリスク要因となりうる認知能力の標準値の作成(2)健聴5歳児音読力の標準値の作成と人工内耳装用児との比較検討(3)日本語において特に「読み書き」に関与する認知能力である視覚認知について5歳児の標準値の作成、の3点について検討を加えた。 研究(1)では、知的に問題の無い学齢前児37名を対象とした。読み書きに必要な認知能力の精査として実施した検査はレイベン色彩マトリックス検査SetA(RCPM)、言語発達遅滞検査(S-S法)、ベントン視覚記銘力検査、音韻認識処理課題、かな-文字の書字及び読字課題を実施した。結果、1、S-SやRCPMはカットオフの指標として有用である。2、かな読字は月齢と相関しないが書字は月齢60ヶ月を境に急速に達成可能となる傾向が明らかとなった。研究(2)では、対象とした人工内耳装用児では健聴児に比して音読時間が有意に短い反面、条件変更のあと誤反応数の増加を認めた。研究(3)では健聴5歳児105名を対象とし、視覚認知課題としてベントン視覚記銘力検査の遅延再生課題を実施した。対象年齢に併せて歪みは無視し各設問のピースの位置と形態の誤りで1点ずつ加点を加えた。結果36.95±5.31であり、現在この妥当性について検証を加えている。研究(2)、(3)については今後論文投稿を予定している。
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