研究概要 |
我々は、粘膜上皮固有の免疫機構の存在を明らかにするため、眼表面上皮細胞の各種菌体成分に対する反応性を検討した。角膜上皮細胞は、グラム陰性菌の菌体成分であるLPSやグラム陽性菌の菌体成分であるPGNで刺激しても炎症性サイトカインIL-6、IL-8を産生しなかった。これは、おのおののレセプターであるTLR4やTLR2の発現が角膜上皮細胞では細胞内に局在するためであると考えられた。その後の解析から、角膜上皮細胞は、PGNに対しては炎症性サイトカインを産生しないが、人工リポタンパクであるPam_3CSK4に対しては、IL-6、IL-8を産生することが判明した。角膜上皮細胞は、眼表面の病原菌である緑膿菌由来やセラチア菌のflagellinに対しては、炎症性サイトカインを産生するが、眼表面とは無関係のサルモネラ菌や眼表面の常在細菌由来のflagellinに対しては、炎症性サイトカインIL-6,IL-8を産生しない。上記で使用したLPS、PGN、Pam_3CSK4、緑膿菌、セラチア菌ならびにサルモネラ由来のflagellinは、いずれも、末梢血単核球では、著しい炎症性サイトカインの産生を誘導する。さらに、眼表面でのTLR5は、角膜上皮層表面ではなく、基底層に限局して存在していた。結膜上皮層におけるTLR5の局在も同様に、基底層に限局していた。このことは、眼表面にフラジェリンが存在しても、健常な眼表面ではフラジェリンはTLR5に接触することがなく、炎症を生じないことを示している。これらの結果は、常在細菌の存在する健常な眼表面では、各種TLRsが存在するにもかかわらず、容易には、細菌に対して炎症を生じない機構が存在することを示している。さらに、ウイルスによって合成される二本鎖RNAを認識するTLR3を、角膜上皮は細胞表面に発現していた。単球などの免疫担当細胞が細胞内にTLR3を発現しているのとは対照的である。二本鎖RNAと相同性を示すpolyI:Cで刺激したとき、角膜上皮細胞は炎症性サイトカインを産生するだけでなく、IFN-βmRNAを結膜線維芽細胞の約10倍、末梢血単核球の約500倍発現した。上記結果は、単球などの免疫担当細胞と粘膜上皮細胞では、TLRsの発現の局在ならびにその機能が大きく異なることを示唆している。
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