研究概要 |
損傷された末梢神経の再生の過程におけるActivating Transcription Factor 3(ATF3)の発現を見る実験を行った。ATF3 Transcription Factorの一種であり、DNA転写の初期に生成されるタンパクで、以降のDNA転写の制御に関与する物質である。ATF3は神経系のみならず肝臓や腎臓といった種々の細胞でストレス刺激に対して発現することが知られている。神経系では、軸索が損傷された運動・感覚ニューロン、末梢神経損傷後のシュワン細胞などで発現することが知られており、軸索損傷・再生のマーカーになりうると考えられている。しかしながら、その詳細な働きは不明である。 これまでの研究は、ラットの坐骨神経を用いて、軸索が再生する圧挫損傷と、再生しない切断損傷を比較し、運動ニューロン及び膠細胞(シュワン細胞)におけるATF3の発現は、再生軸索、ターゲットとの相互作用がなくても自立的に抑制されるが、感覚ニューロンではターゲットとの相互作用等別の制御機構があることが示唆された。また再生軸索が、ATF3発現抑制に何らかのシグナルを発していることも示唆された。 なおこの内容は2005.10.14-15第14回日本形成外科学会基礎学術集会(東京都)および2005.11.8-12 Society for Neuroscience 35th Annual Meetingにて発表した。 そこで、今度はラットの坐骨神経を一度切断した後に再縫合したモデルを作成し、運動・感覚ニューロン、シュワン細胞においてATF3の発現を検討した。坐骨神経切断後0,3,6ヶ月経過後(この間切断した坐骨神経は再生しないよう断端を充分な距離をとって固定しておく)に再縫合しDorsal Root Ganglion(感覚ニューロン)、脊髄(運動ニューロン)、坐骨神経内のシュワン細胞において、ATF3の発現を検討した。再縫合後2週間の結果では、いずれの群も運動・感覚ニューロンにおいては、先の切断後の状態と同様ATF3の発現が見られた。しかしながら、切断後時間が経過するにつれてシュワン細胞内でのATF3の発現量は減少しているような結果が得られた。まだ、実験途中であり最終結果でないので結論は出ないが、ニューロンよりは切断後長時間経過しても再生能力は保たれるが、シュワン細胞は再生能力(再生支援能力)が衰えることが示唆された。
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