昨年度に引き続き、末梢神経損傷に伴ってニューロンやシュワン細胞に発現するActivating Transcription Factor 3(ATF3)の観察を行った。Wistarラットの一側坐骨神経に反対側より採取した腓骨神経を移植した。坐骨神経に腓骨神経を端側吻合した群、吻合せず腓腹神経の断片を坐骨神経に接触させたのみの群、腓腹神経移植せず坐骨神経の神経周膜に端側吻合と同じ縫合のみを行った群を作成し、脊髄内運動ニューロン、後根神経節内ニューロン、坐骨神経内シュワン細胞でのATF3の発現を見た。腓腹神経を縫合せず接しておいたものはいずれにおいてもATF3の発現はほとんど無かった。縫合のみの群では少数のATF3発現ニューロンが見られた。またシュワン細胞では、縫合した部分に一致してATF3の発現が見られた。腓腹神経を端側吻合した群では、多くのニューロンでATF3発現を見た。またシュワン細胞では端側吻合のために神経周膜を開創した部分を中心に多くの細胞でATF3の発現を見た。以上より、端側吻合の場合、端側吻合の外科的処置による神経損傷に伴ってATF3が発現しているものと考えられた。この研究は海外グループと共同で行った。成果は文献2の内容である。 坐骨神経切断後の新規材料(キトサン)を用いた再生の研究も行った。キトサンは甲殻類の甲羅の成分であるキチンより分離精製されたポリサッカライドであり、皮膚などで再生に有用であることが確認されている。Wistarラットの坐骨神経を2カ所で切断して、5mmのギャップを作成し、キトサンスポンジを移植した。坐骨神経の再生軸索はキトサンスポンジが分解されている部分に集積したマクロファージに沿う様に伸長していた。またシュワン細胞もそれに伴って遊走集積していた。キトサンを移植した坐骨神経の軸索は4週間ほどでギャップを超えていることが観察され、キトサンが末梢神経再生に有用な材料であることがわかった。この結果は文献1で発表した。
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