前年度の研究によりミクログリア/マクロファージに特異的に発現するリソソーム性システインプロテアーゼであるカテプシンSはミクログリアが軸索を切断された顔面神経運動ニューロンの表面への接着に必須であることが示された。さらに、このミクログリアの接着は軸索を切断された顔面神経運動ニューロンの生存ならびに軸索再生において重要な役割を果たしていることが強く示唆された。そこでカテプシンSの欠損したミクログリアが顔面神経運動ニューロン表面に接着できない原因についてさらに詳細に解析した。野生型ならびにカテプシンS欠損マウスより初代培養ミクログリアを調整し、増殖因子に対する増殖活性ならびに遊走能について調べた。増殖因子であるGM-CSFあるいはM-CSFを適用後、経時的に細胞数を計測したところ両群間に有意な差は認められなかった。次に遊走因子としてATPを使用し、Boydenチェンバーを用いて遊走能を調べた。しかし両群間に遊走能の有意な差は認められなかった。これらの結果より、カテプシンSの欠損はミクログリアの活性化には影響していないことが明らかとなった。運動ニューロンの表面を覆う細胞外マトリックスの一種であるテネシンRは軸索切断に伴って減少し、またミクログリアが接着できない性質を持つことが知られている。そこで次に、野生型ならびにカテプシンS欠損マウスにおいて顔面神経切断7日目に顔面神経核を切り出し、テネシンR抗体を用いたイムノブロット解析ならびに免疫組織化学的解析を行った。その結果、両群の顔面神経核において軸索切断に伴うテネシンRの減少が認められたが、カテプシンS欠損マウスでは野生型と比較してテネシンRの減少程度は有意に小さかった。以上の結果より軸索切断に伴って活性化したミクログリアはカテプシンSを産生分泌し、運動ニューロンの表面を覆うテネシンRを分解することでミクログリアの損傷運動ニューロン表面への接着を促進することが示唆された。
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