研究概要 |
矯正治療を目的として来院した患者より抜歯した小臼歯歯根の中央3分の1より採取した歯根膜組織をケラチノサイト選択培地にて培養し、郵送してきた細胞が形態的に上皮細胞の特徴を示していたことからマラッセの上皮遺残細胞と判断した。つぎにこの上皮細胞にSV40 large T抗原をコードする遺伝子(SV40T-Ag)とヒトテロメレース逆転写酵素をコードする遺伝子(hTERT)とを導入し不死化を行った。その結果、同培地中で培養した細胞に2種類の細胞が混在することが明らかになった。一方は上皮様の形態的特徴を示し、他方は線維芽細胞様の特徴を示した。これらの細胞の遺伝子発現について検討したところ、上皮細胞に特徴的なcytokeratin5及び16ならびにE-cadherinのmRNAを発現した。またマラッセ上皮遺残細胞のマーカーとされるp75及びtrkAの発現も観察された。さらにエナメルタンパクであるameloblastin,enamelinそしてamelogeninを発現し、エナメル芽細胞としての特徴も維持していた。そして近年、マラッセ上皮遺残細胞がセメント芽細胞に転換するとの報告から、セメント芽細胞に発現するf-spondin及びCP23の発現も認められた。 以上の結果から、今回の培養において認められた線維芽細胞様の細胞は、マラッセ上皮遺残細胞様の細胞が上皮間葉転換を起こしたことに起因する可能性が示唆された。今後、この細胞のクローニングを行い単一の細胞株とし、その特徴について詳細に検討していく必要がある。そして、セメント質の形成や歯根膜組織の維持へのマラッセ上皮遺残細胞の関与について明らかにしていこうと考えている。
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