象牙質形成機構を解析する目的で、本年度は象牙芽細胞前駆体培養系の確立を試みた。そのため未分化な歯胚細胞が存在するマウス切歯根尖部の歯乳頭組織より象牙芽細胞前駆体(Mouse Dental papilla cells : MDP)の採取を試みた。組織採取後、培養皿上に間葉系細胞の形態を示す細胞のoutgrowthが確認された。次に安定した細胞株を作製するためMDPの細胞不死化を試みた。MDPの不死化にはヒトパピローマウイルス16型E6遺伝子のPDZ結合モチーフ欠損変異体を遺伝子導入し、p53遺伝子の不活性化による寿命延長を試みた。遺伝子導入した結果、MDPの寿命は延長し集団倍加数100以上継代可能な不死化細胞であることが確認された。次にMDPの分化能力を調べるため石灰化誘導培地で長期間培養したところ、高いアルカリフォスファターゼ活性と石灰化物の沈着が観察された。次に象牙芽細胞の分化を確かめるためRT-PCR法で遺伝子発現を観察したところ、骨シアロプロテインおよびオステリックス等の骨芽細胞分化に関わる遺伝子群の発現は観察されたが、象牙質マーカーであるdentin sialoprotein(DSP)の発現は観察されなかった。そこで上皮-間葉系の相互作用を利用して象牙芽細胞への分化誘導を行う目的で、基底膜成分から構成されているマトリゲルを用いて実験を行った。その結果、MDPはマトリゲル上でMDPは象牙芽細胞と類似した紡錘状の形態を示し、さらにDSPを発現する象牙芽細胞に分化する事が確認された。以上の結果より、MDPには象牙芽細胞への分化能力を有する前駆体細胞手段が存在することが明らかにされた。次年度は、象牙芽細胞分化誘導能力を有するシグナル分子の探索をMDPを用いて行うことを予定している。
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