研究概要 |
<目的> 粒子の高速衝突付着現象を利用し,ハイドロキシアパタイト(HA)微粒子を歯質表面に,歯科用パウダージェットデポジション(PJD)装置を用いて常温常圧環境下で付着成膜した.その付着膜の微小構造,機械的特性について検討した. <方法> 1)実験方法:ヒト抜去歯を研削し,エナメル質および象牙質まで露出させ,歯科用PJD装置を用いて噴射実験を行った. 2)評価方法:(1)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて微小構造を観察した.(2)噴射時間を変えて成膜を行い,膜厚と硬度を測定した.(3)異なる粒子を用いて成膜を行い,膜厚と硬度を測定した.(4)歯ブラシ摩耗試験を行い,試験後の膜厚と硬度を測定した.(5)スクラッチ試験を行い,付着強度を推定した. <結果と考察> 1)HA膜の観察:HA粒子は密にパッキングされており,エナメル質および象牙質基板に衝突した粒子は原粒子の形態をとどめていなかった.また,膜とエナメル質基板との界面にギャップは見られなかった. 2)噴射時間と膜厚、硬度:膜厚は5sec以内に飽和に至り,膜厚は9μm程度であった.また,膜のビッカース硬度は約600Hvであり,エナメル質のそれとほぼ同程度であった. 3)噴射粒子と膜厚、硬度:TypeA(平均粒径2.7um)による膜はTypeB(平均粒径10um)による膜よりも有意に薄く、硬かった。また、TypeAによるHA膜とエナメル質の硬度に有意差はなかった。 4)歯ブラシ摩耗試験:HA膜は電動歯ブラシによる摩耗試験後において膜厚、硬度ともに変化はみられなかった。 5)スクラッチ試験:4Nの引っかき荷重下においてもHA膜は剥離しなかった. 以上の結果より,PJD法によって生成したHA膜は歯質と強固に付着し,エナメル質と同等の硬さを持つことが明らかになった.PJD法により,従来とは全く異なるインターフェイスを有する新たな歯科修復法の開発が可能であることが示唆された.
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