研究概要 |
癌に特異な分子の細胞内での機能・局在・安定化に関与する分子シャペロンの一種であるHeat Shock Protein90(HSP90)の口腔扁平上皮癌における発現様式とその阻害剤による放射線感受性増強効果に関して検討した。まず最初に、口腔粘膜上皮および口腔扁平上皮癌におけるHSP90の発現を検索した。つづいて、HSP90阻害剤17-AAGを用い、p53の野生株SAS/neo,変異株SAS/Trp248を含む口腔扁平上皮癌細胞株5株(HSC2,HSC3,HSC4,SAS/neo, SAS/Trp53)に対する増殖抑制効果と放射線照射との併用効果を検討した。その結果、HSP90は正常口腔粘膜上皮には発現を認めず、口腔扁平上皮癌においてのみ発現が認められた。よって、HSP90の発現が口腔扁平上皮癌において特異的に増強していることが示唆された。さらに、17-AAGは検索した全てのヒト口腔扁平上皮癌細胞株に対して濃度依存的に細胞増殖抑制効果を示した。 また、HSP90阻害剤と放射線照射との併用では、野生型p53を有するSAS/neoでは放射線照射による増強効果を認めたものの、変異型p53を有する細胞株では放射線照射との併用による増殖抑制の相乗効果は認めず、アポトーシスも誘導されなかった。また、SAS/neoでは、放射線との併用によりG2/M期での細胞周期の停止が生じるのに対し、SAS/Trp248ではG1期停止を生じていた。細胞内シグナル伝達経路の解析で、HSP90阻害剤によりAkt、Raf-1の発現減少と細胞周期のG2期からM期への進行に関与するcdc25Cの発現減少を認めた。 以上の結果より、HSP90阻害剤が口腔扁平上皮癌細胞に対し増殖抑制効果を示したことから、口腔扁平上皮癌の新規分子標的治療になり得る可能性が示唆された。また、放射線照射との併用効果についてはp53の機能によって増殖抑制効果およびアポトーシス誘導が異なった。このことから、HSP90阻害剤の放射線照射との併用を検討する際には、各症例のp53の機能評価を行うことが重要であることが示唆された。
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