本研究は、歯肉溝に滲出し貯留した液を採取し、炎症性応答物質を生化学分析することにより、歯周の健康状態を、炎症を尺度として測定し、持続性の炎症の存在の告知に伴う健康状態の自覚を促すことにより健康づくりの支援に役立てようとするものである(1次予防)。 本年度は、既存資料を用い、歯肉溝滲出液(GCF)検査値と口腔の健康情報およびライフスタイル、各種検査値との関連性についての解析を行った。事業所の従業員921名の口腔の1カ所から、ろ紙を用いてGCFを採取し、検査センターで、ヘモグロビン(Hb)、α1-アンチトリプシン(AT)、ラクトフェリン(LF)、IgAを一括して定量した。ロジスティック回帰分析により、検査値と2値化した口腔の健康状況およびライフスタイルとの関連性を調べた。 全ての検査項目は、現在歯数と有意に負の相関を示し、Hb、LF、ATは個人の歯周組織の状態(CPI)と正の相関性を示した。AT、LFは歯科に関連する良い健康習慣の総数と負の相関性を示し、AT、LF、IgAは個人の歯垢付着度と正の相関性を示した。GCF検査値は、口腔の健康状況および口腔のライフスタイルと関連があることが示され、口腔の1カ所から採取されたGCFの炎症性物質の値は、口腔の健康状況と口腔健康習慣と関連づけることができた。口腔以外のライフスタイルとの関連が説明できるGCF検査法の開発研究が必要であることが判明した。 次いで、プロッティング(筆吸引)法を応用したGCF試料の吸引採取器具を考案した。この方法より、これまで口腔の1点からの採取が、歯肉溝に貯留している滲出液をより広範囲から採取することが可能となった。さらに、採取した多数試料の一時保管、検査センターへの搬送、検査センターでの分析、検査結果の検査受診者へのフィードバックの一連の検査システムを構築した。
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