研究課題
東京都、長野県、島根県の総合病院で下肢の受傷により整形外科的治療を受け、半年から1年程度経過した在宅高齢者29名(男性9名、女性20名、平均年齢79.2±6.5才)を対象にした訪問面接調査の逐語録から内容分析を行った。高齢者にとって手術を要する下肢の外傷は、移動能力の喪失、すなわち寝たきり状態となることを想起させるものであった。たとえ予後が良好な外傷や手術であっても、全事例が受傷をきっかけに寝たきりは嫌だという思いを強くしていた。病気で辛い治療を受けるくらいなら死んだ方がましと言う一方で寝たきりによる死亡を強く否定するなど、高齢者にとって寝たきりは「惨めな死に方」であった。このような惨めな状態を避けるために、「寝たきりになるよりはまし」と、たとえ転倒などの事故の危険があっても活動量を維持・拡大することを重視し、日々こなすべき運動のメニューを独自に考え、取り組んでいた。「(自ら考えた日課を)今日もやる」ことが寝たきり予防として最も効果的な手段であると捉えられていた。また、高齢者は様々な思いを家族や友人にすら話すことはなく、抱え込んでいた。特に骨折の治療をしてくれた医療者に対しては、回復した姿を見せたい、弱音を吐きたくないという思いを抱いていた。以上の結果から、医療者は寝たきりを予防したいと願う高齢者のありのままの気持ちや生活の様子を把握し、リハビリテーション効果の高い運動や活動を日課に採り入れられるような働きかけを考える必要性が示された。