本年度は、まずフォトニックネットワークにおいてスケーラブルなルーティングを実現するために、ルーティング機構の階層化手法の提案を行った。提案手法は各ノードが分散してクラスタ構築動作を行う分散クラスタリングであり、ノード間で設定可能な光パス数の最大化を目指してクラスタを構築する。これは、階層化されたネットワーク上で選択される経路として、ファイバ数の大きな経路を用いるようにクラスタを構築することで設定可能な光パス数を増加させると、棄却性能の劣化を抑えられるという考えに基づいている。計算機シミュレーションによって、提案手法で構築したネットワークは、経路表サイズが大幅に減少し、棄却率の上昇が抑えられることを示した。また、光パス設定の分散制御技術に関する研究にも取り組んだ。分散環境を対象とした光パス設定に関する研究では、ネットワークの波長利用状況に基づいて光パスの経路および波長を選択するための様々なアルゴリズムが提案されてきている。しかし、これらのアルゴリズムでは、光パス設定時に正確かつ詳細な波長利用情報を利用できるという仮定があった。現実にはリンク伝搬遅延や情報配布頻度によって古い波長利用情報を利用するため、性能が低下する可能性がある。そこで本研究では、既存の波長予約方式を利用した際に、リンク伝搬遅延の影響や情報配布頻度の違いが棄却性能に与える影響を調査し、バックワード型波長予約方式では0.2%程度の棄却率上昇であるのに対し、フォワード型波長予約方式では最大15%棄却率が上昇することを明らかにした。次に、情報が古いことによる影響が小さい経路選択方式を提案し、従来の最小負荷経路選択よりも20%パス設定時間を短縮し、情報が古いことによる影響が最小負荷経路選択より小さいことを確認した。
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