研究概要 |
本研究は,他者との対話場面をおいて人が態度や行動を変化させる際の外的な要因として音声の韻律的特徴が与える影響を解明することを目的とする.特に,音声の韻律情報が発話された内容の意味の解釈に対して強力な影響をもつ可能性に注目し,他者との対話場面において発話された音声の韻律的特徴が,聞き手の態度や行動を変化させる要因となることを心理実験を通して検証することを目指す. 音声の韻律的特徴によって喚起される人間の注意への影響,生態学的な音声知覚に伴う反応に着目し,発達心理学的知見(マザリーズや養育者の育児行動など)も考慮に入れた検討を行なった.また音声は聴取者にとって比較的対人的な反応を誘発しやすい刺激であるため,音声の知覚に伴う反応が単純に音声刺激によって直接生じた行動であるか,あるいは社会的な要因を聴取者が想定した上で生じた反応であるかが曖昧である.したがってこの問題についても心理実験の結果を分析することを通して検討・考察を行なった. そこで特に,人間の生態学的な音声知覚に伴う反応に焦点をあて,音声の韻律的特徴の違いが人間の認知的反応にどのような影響を及ぼすのかを心理実験を通して検証した.その結果,異なる韻律的特徴をもった2つの音声を同時に提示したとき,被験者はより高いピッチの音声,またはより速い話速の音声に強く影響を受けるという傾向が観察された.さらに,音声の韻律の違いに対する行動選択が,直観的になされていたという可能性も示唆された.このことから,人間は音声の韻律的特徴の異なる2つの音声からの呼びかけに対して,通常よりピッチの高い音声および,より話速の速い音声に誘導されやすいという可能性が示唆された.
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