本研究では、数万人以上の規模のユーザに対する認証つきの同時動画像ストリーミング放送システムに、動画像コンテンツの保護技術を不可分な形で取り込む方式について研究中である。具体的には、放送型暗号によって暗号化されたコンテンツを復号する過程において、必然的にその復号時に使われた認証鍵固有の情報がコンテンツ内に電子透かし(電子指紋)として残存し、なおかつリアルタイム処理が可能であるような方式、すなわちリアルタイム処理可能な動画像向け、放送型暗号一体型の電子指紋方式を開発している。また、スケーラブルなデータ配布基盤の形成のために、P2P型のオーバーレイネットワーク形成ソフトウェアを開発中である。 本年度は、既発表の放送型暗号を再検討し、より結託攻撃に強くトラフィックへの影響が小さいものはないか、それらの実装は容易かどうか検討した。その結果、Dodisらの提案したTrace and Revoke Schemeが本システムで狙うユーザ数やトラフィック規模に適していることを見出し、システム内に新たに実装した。また、既存の動画像に関する電子透かし方式および電子指紋方式を調査し、照合攻撃に対する耐性、およびトラフィックに与えるインパクトについて評価した。これらの調査結果より、Staddonらの提案するTA符号を基にした電子指紋符号を用いることがスケーラビリティと結託耐性のバランスから見て適していると判断した。電子透かし手法については本システムが求めるリアルタイム埋め込みに耐える手法が存在しなかったことから、独自の手法を開発し実装した。オーバーレイネットワーク形成ソフトウェアの開発については、基盤となるミドルウェアの評価にとどまっており、実装は来年度引き続き行うこととした。
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