人間ロボット協調において、言語は極めて強力なツールである。しかし記号接地問題として指摘されるように、人間の使用する文章・単語の意味は、利用される状況・文脈に強く依存するため、効率的な対話協調システムの設計は極めて困難である。本研究では、ロボットに人間と同レベルの"自然言語"を利用することを強いるのではなく、ロボットが自らの学習機能によって獲得する環境・タスクの表現、すなわち擬似シンボルを、人間ロボット間のコミュニケーションに利用する方法を検討する。 擬似シンボルの候補として"プリミティブ"の概念に着目した。プリミティブとは、実環境における感覚・運動の連続的なデータフローの安定状態である"アトラクタ"を切り出しコード化したものである。本研究ではこのコード化に、谷らの提案したパラメータ付再起神経回路モデル、RNNPBを用いた。RNNPBはパラメータによってその特性を制御できるダイナミクス生成器であり、学習したアトラクタに対応したパラメータ値を自己組織化する。本研究では、このパラメータ値を閾値処理したビット表現を"擬似シンボル"として利用した。 卓上を色により複数領域に分け、人間型ロボットロボビーに各領域上で右腕を複数回、ランダムに移動させ、RNNPBによりセンサ・モータの時系列データの学習(時系列の予測・再現とパラメータによる分節化)を行った。その結果、領域間移動に対応するパラメータ表現を獲得できた。このパラメータ表現を擬似シンボルに変換し、人間が音声によりロボットに与えることで、その動作を指示できることを確認した。さらに(1)同じ擬似シンポルでも、状況に基づいて意味内容が変化しうること、(2)学習時に利用されなかったパラメータ(擬似シンボル)を利用して、未知動作を生成できることを確認した。
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