研究課題
本研究の目的は、構成的アプローチにより言語の起源と進化の動的現象を明らかにすることである。今年度は、語彙としての意味を持つ語が文法機能を獲得して行く「文法化」により、文法が複雑化していく過程について、文法化を行うエージェントモデルを構築することを通して研究した。エージェントは、記述すべき意味を表す発話を生成する文法を学習する。学習には3つの文法オペレーションを仮定し、エージェントはこのオペレーションを自分の文法に当てはめ、より一般的な文法を作ろうとする。このエージェントを繰り返し学習の枠組みで時間発展させる。繰り返し学習の枠組みでは、親と子の2エージェントが存在し、親だけが発話し、子は親の文法を獲得しようとする。ある程度学習が進んだ段階で、子は成長して親となり、新たに言語知識を持たない子が導入され、古い親は取り除かれる。文法化をモデル化する際に、再分析と類推というホッパーらが提唱している言語現象を基礎にした。本研究ではこの二つを認知能力と再定義し、この能力と上記3つのオペレーションとの関係を分析した。その結果、3つのオペレーションにより再分析と類推の認知能力が表現できていることがわかった。シミュレーション結果の分析より、文法範疇を越える意味変化(名詞→動詞など)が確認された。ここに時制(過去・現在・未来)を表す意味を導入し、さらに、意味空間を設計することで、「行く」という意味を表す動詞から未来時制を表す助動詞への変化という、自然言語に見られる文法化が起きることが確認できた。そして、語の意味の重なりという意味設計により意味変化が起きやすくなり、「行く」という意味と「未来」の意味の共起により、動詞→助動詞という一方向性を持った文法化が実現されることを明らかにした。また、文法化が起きるには、ある語が多義的になり、さらに、その語との同義語ができるという過程を経ることも明らかにした。
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The Proceedings of Evolution of Language, Sixth International Conference