研究概要 |
神経幹細胞からニューロンやアストロサイトなどへの分化は発生段階依存的に起こる。研究代表者は胎生中期神経幹細胞がアストロサイトへと分化しないのはアストロサイト特異的遺伝子(例えばGFAP)プロモーター中の転写因子STAT3結合配列がメチル化されているためであり、発生進行に伴いこれが脱メチル化を受けアストロサイト分化能を獲得することをこれまでに示している。ところが発生が進行し既に細胞内在性プログラムのスイッチが入ってしまった初代培養神経幹細胞のみを用いてはエピジェネティクスが関与する幹細胞分化を根本から理解することは困難である。そこで本研究ではこのプログラムを初期状態から経時的に追跡可能にするため、プログラムのスイッチが入っていないと考えられる全能性胚性幹細胞(ES細胞)を用いたモデル培養系の確立を目的の一つとした。ES細胞から神経系への分化は血清によって阻害されることが分かっていたため、血清非存在下にES細胞を浮游培養することで神経系細胞への分化を誘導した。その結果浮游培養期間に依存して初代培養神経幹細胞と同様に、ニューロンへとしか分化しない状態およびアストロサイト分化能を獲得する状態を再現できた。またそれと呼応したアストロサイト特異的遺伝子プロモーター中のSTAT3結合配列の脱メチル化も観察され、ES細胞を用いたモデル培養系の確立はなされたと考える(J.Neurochem,2005)。また、本年度のもう一つの目的であった「ニューロン分化状態維持機構」に関しては、メチル化DNAに結合し転写抑制因子として機能するタンパク質群(MBDs)が神経系ではニューロンでのみ発現しており、MBDsが重複した機能をもってアストロサイトへの分化転換を制限している事を示唆する結果を得ている(投稿準備中)。
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