Olig2の観点からオリゴデンドロサイトに関する基礎並びに臨床病理学的な研究を実施した。脳腫瘍の病理診断に免疫組織化学は必須でそれを組織マイクロアレイを用いて統計的な解析を試みたところ、Olig2はグリオーマ、中でもオリゴデンドログリオーマで陽性率が高いことがクラスター解析などの腫瘍を用いて示された。またオリゴデンドログリオーマが頭蓋外へ転移することはほとんど報告がなく、その証明には慎重な態度が求められるが、Olig2抗体を用いることでそれを証明し得た1例を経験した。Olig2と並んでオリゴデンドロサイトの発生を制御するNkx2.2はこれまでヒトを対象とした研究がほとんどなされていなかったが、同分子はオリゴデンドロサイトの核に局在し、オリゴデンドログリオーマにおいて陽性率が極めて高い一方で、毛様細胞性アストロサイトーマでは陰性例が多いなど、Olig2とは異なった性質を有することが判明した。基礎的な課題に観点を移すと、腫瘍には幹細胞、前駆細胞、成熟細胞など、正常細胞の様々な発生段階を模倣する、いわば一個の臓器のような集団で、腫瘍細胞の分化段階に階層性があることが有力な説として浮上している。アストロサイトーマにおいてなぜOlig2が発現するのかという疑問に対して、グリア前駆細胞を模倣する腫瘍細胞がOlig2を発言していることが想定されている。それを証明するためには幹細胞マーカーとOlig2の発現状況を検討する必要があるが、現行の幹細胞マーカーはルーチンの臨床材料ではほとんど役に立たないため、独自のマーカー開発を推し進めている。それと同時にヒトグリオーマの幹細胞解析に必要な細胞試料の収集をおこなっており、次年度以降の研究成果が期待される段階まで達している。
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