研究概要 |
細胞内物質輸送は細胞機能発現に重要であり、その輸送のためのレールとしての役割を果たすのが、チュブリンという蛋白質でできる微小管である。その上でプラスエンドモーターが輸送を行っている(瀬藤らScience 2000、瀬藤らNature 2002)。モーター複合体とチュブリンレールの結合部位はチュブリンのC末端であり、そのC末端ではグリシン付加、チロシン付加、脱チロシン、グルタミン酸付加、燐酸化、Δ2ペプチターゼによる切断などの修飾を受けるが、細胞内輸送の制御の実体は明らかではない。そこで、我々はレール側であるチュブリンのC末端の翻訳後修飾に着目した(瀬藤らJ. Neurobiol 2004)。チュブリンの翻訳後修飾の正確な解析は質量分析を必要とする。今年は先行したさきがけ研究の成果を受ける形でまず、チュブリンの質量分析を高速ナノ液体クロマトグラフィーで分離、イオントラップ-タイムフライト多段階質量分析等で解析観察する系を立ち上げ、詳細に解析した(投稿準備中)。これら解析の過程で老化に伴い大脳皮質内でチュブリンのアセチル化が亢進することに気が付き、大脳皮質内で細胞をイメージングする手法を開発した(福田らNeuroscience Letters2006)。これらの手法でグルタミン酸付加酵素ミュータントマウスに、グルタミン酸付加の異常があることを発見した。このマウスにおいて細胞内物質輸送の変化を調べ、シナプス小胞の輸送の障害を発見した(投稿中)。また、新規グルタミン酸付加酵素を複数同定、クローニングし、抗体を作成した。その中の1種は発現形式から脂肪細胞での機能が示唆されたため、脂肪細胞での指標蛋白質の抗体も作成し検定した。さらに別途先端計測で開発中の顕微質量分析装置(新間らJMSSJ2005,瀬藤らSIA2006、小河ら島津評論2006、新間瀬藤表面化学2006、新間らSIA2006,杉浦らJMSSJ2006)でチュブリンが検出できることを予備的に確認した。なおこの間、北米神経科学会やアメリカ細胞生物学会等でチュブリンの修飾についての最先端の研究情報を収集した。
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