高湿度環境下で、生分解性高分子の非水溶性有機溶媒の希薄溶液を直径約10cmのガラスシャーレ上にキャストすることで多孔質薄膜の作製を行った。光学顕微鏡を用いてキャストした高分子溶液表面のその場観察を行った。溶液濃度、キャスト量などを変えることで多孔質薄膜の3次元構造制御を行った。さらに、膜の孔の形に異方性を付与するために、膜の両端を固定して延伸する装置を作製した。溶液キャスト後のパターン形成過程は、溶媒の蒸発と溶媒表面への水の凝縮により、濃度、温度、粘度など様々な物理パラメーターが経時的に変化する複雑な非平衡系である。多孔質薄膜形成過程の観察から、孔の鋳型となる微小水滴は、経時的に成長することが分かったので、孔径制御には、溶媒蒸発時間が効果的なパラメーターであることが示唆された。事実、孔径は溶媒の蒸発時間に比例して大きくなった。孔の貫通、非貫通は、キャスト量とキャスト面積を一定にした場合、溶液の濃度変化で制御できた。また、様々な生分解性速度を有する高分子で同様の膜構造制御ができた。さらに、延伸装置により、ポリブタジエンやポリカプロラクトン膜の孔の長軸を2〜10倍延伸できた。これらの膜の積層化も可能であった。孔径5ミクロンの膜を用いて片面培養を行ったところ、細胞増殖や細胞外マトリックス産生量が向上することが分かった。次いで、血管内皮細胞と血管平滑筋細胞をそれぞれ、膜の表面と裏面で培養を行ったところ、良好な増殖率と細胞外マトリックス産生が両面で見られた。これは、孔径と膜厚の制御により、お互いの細胞は膜で仕切られるものの、孔を介して細胞間相互作用ができ、さらに膜の物質透過性に優れるために良好な結果が得られたと考えられる。
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