研究概要 |
細胞の力学情報伝達機構を知ることは細胞の生理・病理を知る上で非常に重要である.例えば,血管の病気である動脈硬化症や軟骨の病気である変形性関節症などの各種病因・病態を解明できる可能性がある.力学刺激が実際に細胞内でどのように伝達されているかに関してはその計測の困難さからほとんど解明されていない.本研究では細胞内で力学刺激が伝達していく過程を明らかにするため,ピペット吸引法とFRAP技術を組み合わせて力学刺激に対する細胞骨格構造の変化を蛍光画像として追跡し画像解析により細胞内の力学環境を定量的に把握することを目的とする.またセカンドメッセンジャーの一つであるカルシウムイオン濃度の変化を同時にイメージングすることにより骨格構造変化との相関関係を調べる.本年度は軟骨細胞を用いて本研究の要素技術のいくつかを確立した.まず,細胞骨格に局在していると言われているミトコンドリアをMitoTracker-Greenで染色しピペット吸引を行った.0cmH_2Oから10cmH_2Oまで2cmH_2Oずつ陰圧を増加させながら,共焦点レーザー顕微鏡によりスライス蛍光画像を取得し経時的にミトコンドリア分布の変化を追跡した.得られた画像からDIC(Digital Image Correlation)解析法により細胞内の変位分布を算出した.また,続けて有限要素法を行いひずみ分布を算出した.その結果,ピペット吸引口付近で大きなひずみ分布が得られた他,局所的にひずみ分布が異なる結果が得られ,このひずみ分布の不均質性は細胞内小器官の不均質な配置に依存していることが示唆された.また,5cmH_2Oの陰圧をステップ状に負荷した場合の細胞のカルシウム応答を計測した.細胞は予めFluo4-AMで染色した.刺激負荷後20〜30秒程度でカルシウム蛍光の輝度はピークを迎えその後徐々に減少していった.カルシウム応答は細胞内で不均質性を有しており,特にピペット吸引口付近で大きな上昇を示した.次年度以降はFRAP技術を組み合わせ細胞内マルチイメージング手法全体の確立を行い実験データの蓄積を図る.
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