研究概要 |
細胞の力学情報伝達機構を知ることは細胞の生理・病理を知る上で非常に重要である.力学刺激が実際に細胞内でどのように伝達されているかに関してはその計測の困難さからほとんど解明されていない.本研究では細胞内で力学刺激が伝達していく過程を明らかにするため,ピペット吸引法とFRAP技術を組み合わせて力学刺激に対する細胞骨格構造の変化を蛍光画像として追跡し画像解析により細胞内の力学環境を定量的に把握することを目的とする.またセカンドメッセンジャーの一つであるカルシウムイオン濃度の変化を同時にイメージングすることにより骨格構造変化との相関関係を調べる.本年度は初年度に確立した実験方法を用いて軟骨細胞に局所力学刺激を負荷した場合の細胞の力学特性の変化,アクチンリモデリング,カルシウム応答の関係をイメージング技術を駆使して詳細に調べた.また,アクチンリモデリングを観察する際にはFRAP技術を用いてアクチン分子の拡散の様子を調べた(この実験の一部は共同研究先のQueen Mary University of Londonで行った).予めGFP-アクチンを遺伝し導入した軟骨細胞に対してピペット吸引を行った.0cmH_2Oから10cmH_2Oまで2cmH_2Oずつ陰圧を増加させた後,0cmH_2Oに戻し,再び同様の吸引実験を行った.1回目の吸引は前負荷であり,2回目の吸引において力学特性およびアクチンリモデリングを観察するものである.すなわち,明視野像において変形の様子を観察すると同時に共焦点レーザー顕微鏡により蛍光画像を取得した.その結果,前負荷におけるステップ時間間隔は細胞の力学特性を有意に変化させた.また,アクチンコーティカルレイヤーは吸引に伴い,一旦分解した後,再び重合していく様子が見られた.さらにこの機構には細胞外カルシウムイオンの存在が必要であることが示された。次年度はデータの蓄積を図り細胞のシグナル伝達機構をより定量的に検討していく.
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