本研究では、夕方運動後における副交感神経系活動の回復が夜間睡眠に及ぼす影響について検討した。本実験は運動しなかった日(非運動日)、運動終了から就床時刻まで座位安静により副交感神経系活動の回復を抑制しなかった日(運動後安静日)、就床直前に1時間の計算課題を実施して副交感神経系活動の回復を抑制した日(運動後計算日)の3日間で構成し、各実験日の眠気や夜間睡眠を比較した。被験者は健常な男子大学生20名であったが、生活を統制できなかった4名を除外し、16名にて解析を行った(平均年齢20±1歳)。被験者は室温23〜26℃に保った室内で外部からの情報や日光から隔離された中で規則正しい生活を行った。運動日には60%HRRのトレッドミル走を19時20分から40分間行った。本実験では、連続記録したRR間隔からHFパワー値を求め、副交感神経系活動の指標とした。その結果、計算により副交感神経系活動の回復抑制が認められたのは、16名中13名であった。この13名において睡眠前の眠気の大きさは変化なかったが、運動後計算日の入眠潜時が運動後安静日に比べて有意に大きい結果が認められた(24分>16分)。寝つき時間以外の睡眠変量(深さや中途覚醒、睡眠効率など)には有意な悪化が認められなかったことから、副交感神経系活動の回復抑制による睡眠への悪影響は短期的なものと考えられた。これら運動後計算日における睡眠阻害は、被験者全員では認められなかった。さらに本研究では、計算課題が体温変動を介して睡眠に影響した可能性についても被験者を反応別に分類して検討した。その結果、計算課題による深部体温低下の抑制が7名に認められたが、彼らの睡眠に悪化は認められなかった。以上の結果から、夕方運動後において、体温の回復を抑制するよりも副交感神経系活動の回復の抑制するほうが、その後の入眠に悪影響を及ぼす可能性が高いことが考えられた。
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