文化財保存科学の研究分野では、(i)文化財を構成する材料と製作技法を科学的に解明すること、(ii)文化財を活用しつつ、さらに次世代へ伝えていくためのより良い保存環境を追求すること、が重要な研究課題であり、そしてこれらのテーマはお互いに密接な関係がある。しかし文化財の調査では、非破壊・非接触を大前提とした手法を要求されるケースが多いことから、X線を用いた調査方法は重要な役割を担ってきた。近年ではX線CTを用いた木材の年輪年代測定などの新しい調査方法も開発されて活用されている一方で、X線透過撮影やX線回折のような従来から利用されてきた方法については改良の余地が残されていると考えられる。例えば、現地調査を余儀なくされる文化財も多いことから、可搬な測定装置の必要性は今後さらに高まっていくだろう。ここ数年で素粒子・原子核物理の分野などを中心に開発研究が進んでいるガス電子増幅フォイル(Gas Electron Multiplier foil、以下GEMと略す)を利用することにより、簡便、安価かつポータブルなX線検出器を製作できる可能性がある。今年度は、GEMを用いたプロトタイプ検出器の詳細な基本性能評価、X線管球を用いた耐性試験、キセノン混合ガスを用いた高エネルギーX線に対する検出器の応答試験を行った。 また、X線透過撮影用検出器、X線回折用検出器ともに、文化財調査へ適用するためには、高い解像度の2次元イメージングが必要となり、そのためにCMOS技術を応用したセンサーの選定、詳細なデザイン及び製作を行った。
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