ベンゼン環にハロゲン原子が結合した化学物質、特にPCBやDDTなどの化学物質は生体内の受容体タンパク質と強力に結合するため、強い活性を発現することが知られている。本研究においては、そのような強力な受容体結合力の本質を解明することを目的に、核内受容体タンパク質を用いての分子間相互作用の解析を実施している。本年度は、3年計画の2年目として実験計画に従い、以下の実験・研究を実施した 核内受容体の立体構造解析は、分子モデリングソフトウェアDiscovery_Studioにて行った。核内受容体のリガンドにはπ系、すなわちベンゼン環を有するものが多いが、それらリガンドのπ系の多くは受容体タンパク質の炭化水素側鎖を有するアミノ酸残基と近接していることが判明した。そのようなπ系と炭化水素間にはCH/π相互作用が存在していると考えられた。よって、このような分子間相互作用の強さを分子力学法(CHARMm)で算定すべく計算を実施したが、有意な結果が得られなかった。そこで、弱い分子間相互作用を評価するために分子軌道計算を実施した。ERα、ERRγにおける受容体-リガンド間の結合エネルギーの算出はフラグメント分子起動法・FMO法においてrHF法およびMP2法を併用して実施した。その結果、MP2法における計算では、rHF法と比べ弱い分子間相互作用が算出され、リガンドの結合親和性に相関した結合エネルギーが得られた。よって、このFMO-MP2法が弱い分子間相互作用の評価に効果的であることが明らかとなった。一方、ERRγでのリガンド結合におけるπ系相互作用の重要性について、アミノ酸残基置換による組み換え受容体と標識化合物を用いた結合性の評価を実施した。
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