研究概要 |
本研究では、分子性物質である共役ポリラジカルの多様性を生かし、剛直な共役ポリマーが有する自己組織化性や、主鎖のらせんキラリティのような高分子特有の高次構造を組み合わせて、今までにない新しい磁性体を目指すことを研究目的としている。この目的を達成するために、以下の項目について実施している。「ポリラジカルの組織化を制御することで、磁性を制御する方法論について探索する。」、「今まで未知であった新物質系として、キラルポリラジカルを創製し、その磁気的・光学的性質など諸物性や機能について整理する。」本年度は、単分散のオリゴ(9,10-アントリレンエチニレン)型ポリラジカル前駆体について合成し、それらの電子状態を明らかにした。また、共役ポリラジカルの組織化については、予備的に末端アセチレンのらせん選択重合による光学活性らせん構造の構築や超分子組織体の安定ラジカル包接を試みた。 1.オリゴ(9,10-アントリレンエチニレン)誘導体の合成 側鎖にフェノール残基を有する9-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチニル)-10-ブロモアントラセン誘導体をPd(PPh_3)_4触媒存在下重合させた。添加する塩基の量により重合度の制御が可能であり、リサイクル分取GPCを用いオリゴマーを分取して、n=2〜5の単分散のオリゴマーを得ることに成功した。 2.オリゴ(9,10-アントリレンエチニレン)誘導体の電子状態 得られたオリゴマーは、クロロホルム溶液中では、重合度と共に黄色、オレンジ、赤、赤紫へと変化した。可視吸収スペクトルの極大値も重合度と共にレッドシフトし、5量体ですでに吸収極大値は543nmに達し、アントラセン環の平面かつ共役した電子構造が主鎖全体にわたる共役系に影響していることを示唆した。トルエン溶液中のポリラジカルダイマーの室温ESRスペクトルでは、g=4にΔMs=2の吸収が認められ、側鎖フェノキシラジカル間のスピン交換が明らかとなった。磁気測定から算出されたジアントリルアセチレン構造を介した磁気的相互作用はJ=34cm^<-1>と比較的大きな値となった。側鎖置換基の数が増えても分子全体の共平面性に影響を与えていないことが示唆された。
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