研究概要 |
まずマイクロビームの生成に関しては,超高真空中で動作可能な二段階集光K-Bミラーシステムの設計・製作を行い,4枚のミラーを組み込んだ上で,高エネルギー加速器研究機構・フォトンファクトリーのビームライン16Bにおいて放射光を用いた実験を行った。その結果,短時間の調整でほぼ計画通りの集光が行えることを確認した。また,試料を正確に走差するために,歪センサーを用いたフィードバック機構つきピエゾ駆動精密ステージを購入し,予定通りマイクロメーター以内の精度で試料走査が行えることを確認した。これらにより,水平方向の分解能は当初計画を実現できることが確実となった。 一方,深さ方向の分解能を与える深さ分解XMCDに関しては,まずイメージング型の電子検出系の構築を行い,高速,高精度でのデータ取得を可能にした。さらに,マキシマムエントロピー法を用いて薄膜の一層一層に対するX線吸収スペクトルを得られる解析方法を開発した。こうした整備の結果,Ni/Cu(100)薄膜において表面と界面のX線吸収スペクトルの抽出に成功し,特異なサテライト構造が表面でのみ消失すること,それが表面において周囲の原子数が減少することに起因することを明らかにした。また,Fe/Ni/Cu(100)薄膜におけるスピン再配列転移の起源を,Fe,Niそれぞれの軌道磁気モーメントを層分解することによって明らかにした。 さらに,放射光を使用しない時期にも有効に予備実験が行えるように,超高真空中で磁気光学Kerr効果を測定できるシステムを構築し,効率的に放射光利用実験が行える体勢を確立した。
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