本研究では、表面や裏面が修飾された個別の単層カーボンナノチューブの表面構造、電子状態、化学的性質などを原子スケールで直接観測することを目的とする。この計測により単層カーボンナノチューブの界面物性と電気伝導特性や電子状態との相関についてまだ観測されたことのない直接的な情報を得ることを進めている。本年度は、単層カーボンナノチューブを金(111)単結晶表面に孤立吸着し、極低温走査童トンネル顕微鏡(LT-STM)を用いた原子レベル観察を行った。 (1)単層カーボンナノチューブの型吸着専用サブチャンバーの作製 カーボンナノチューブは太い束(バンドル)を形成しており、孤立したナノチューブを金属基板の固定化することは簡単ではない。本研究ではパルスドーザーを利用し、超高真空チャンバーの中でナノチューブの入った微量の溶液を基板表面に直接噴霧する方法を試みた。その際、既存の超高真空チャンバー内部の装置や部品の汚れの恐れがあるため、カーボンナノチューブの吸着を目的とする専用チャンバーを構成し、既存のSTMチャンバーに取り付けた。 (2)単層カーボンナノチューブ表面のSTM観察 専用チャンバー内で吸着した後、STM観察のためのチャンバーへサンプルを移動し、4.7Kまで温度を下げる。高解像度のトポグラフィックイメージと表面電子状態密度の空間分布イメージを同一場所で同時に測定した。欠陥サイトと正常サイトでの構造の違いや電子状態密度の違いによる振動スペクトル(IETS)および走査トンネルスペクトル(STS)を得ることに成功した。
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