研究概要 |
本研究では、表面や裏面が修飾された個別の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の表面構造、電子状態、化学的性質などを原子スケールで直接観測することを目的とする。SWCNTが金属表面上に吸着すると、その界面で電荷移動が起こり、局所的静電ポテンシャルの摂動などによりSWCNTのフェルミー準位が移動することが知られている。試料作成の簡便性の理由から、現在までの走査トンネル顕微鏡(STM)や走査トンネル分光(STS)によるSWCNTの局所構造と電子状態の研究は殆どAu(111)単結晶表面のみで行われてきた。我々は、SWCNTと金属基板表面との界面で行われる電荷移動の様子を系統的に調べるため、さまざまな種類の金属単結晶表面上にSWCNTを清浄に吸着させ、STMおよびSTSによる観察実験を行った。この計測によりSWCNTの界面物性と電気伝導特性や電子状態との相関についてまだ観測されたことのない直接的な情報を得ることを進めている。本年度は、SWCNTを溶媒に分散させずに超高真空チャンバー内で直接金属基板上に固定させる薪しい方法を用い、Au(111),Ag(100),Cu(111),Cu(100)などのさまざまな金属表面とSWCNT間の電子移動の違いに関する研究を行った。各基板上におけるSWCNTのSTSスペクトルを比較すると、SWCNTと基板とのエネルギーレベルの違いにより、フェルミー準位近傍のエネルギー領域において異なる電子的相互作用が存在することが明らかになった。さらに、金属表面にNaClやMgOなどの絶縁層を形成し、絶縁層を介した垂直方向でのSWCNTの電子輸送に関する実験を行っている。
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