研究概要 |
H17年度は、「福祉国家」政策の厚生経済学的基礎理論に関わるいくつかの重要な成果を得た。第一に、負の公共財供給の伴う動学的資源配分問題における「機能と潜在能力」指標による「機会の平等」・配分効率性・持続可能性の3条件両立可能性問題に関しては、一般不可能性定理を導く事が出来た。この論脈では配分効率性は必ずしも必要不可欠な性質とも言えないので、「機会の平等」と持続可能性の基準を優先し、その制約下で最大限効率的な配分を選ぶセカンド・ベストルールが展望される。第二に、「機能と潜在能力」指標を用いた協力的交渉ゲームの公理的研究に関しても、計二回に渡って、海外の共同研究者であるYongsheng Xu教授のいる米国Georgia州立大学を短期訪問して集中的に共同研究作業を行った結果、「機能と潜在能力」指標を用いた協力的交渉解を3つほど提唱し、それぞれの解の性質を公理的に明らかにする事が出来た。解の性質の違いは、解の合理性についての強弱、対称性についての強弱、効率性についての強弱などの組み合わせによって説明できる事がわかった。第三に、「福祉国家」政策の厚生経済学的基礎理論に直接関わる論文として、和文論文を二本書き、そのうちの一本は『経済研究』誌にすでに公刊された。そこでは「福祉国家」的経済政策が考慮すべき3つの基準として、市民の自律性の保証、実質的機会の出来る限りの均等化、及び配分効率性を提唱した。そしてこれら3つの基準を同時に達成するようなファーストベストの「福祉国家」的経済政策は一般には存在しないものの、3つの基準へのウエイト付けをうまく考える事によって、セカンドベストの「福祉国家」的経済政策を実現するための整合的資源配分ルールが設計可能である事を証明した。さらに、この3月に一橋大学で国際コンファレンス『Internatiol Conference on Rational Choice, Individual Rights and Non-welfaristic Normative Economics』を開催し、国内4人、海外から11人もの研究者を招聘し、研究交流を行った。
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