研究計画に基づき、球面にある渦運動の数値解析と数理解析を行った。理論解析においては、N個の渦糸が同一緯度に等間隔に並んだ渦糸環配置(N-ring)を扱った。回転の効果として球面の北極と南極に渦糸を固定し、それらによる誘導速度を用いた。先行研究によって行われていた渦糸環の線形安定性解析によって求められた固有値と固有ベクトルを用いて、渦糸の和が奇数の場合の系の分割について論じた。さらに、その部分系から、系にヘテロクリニックな解軌道の存在を数学的に示し、その周辺ではカオス的な運動や再帰的な運動などが発生することを数値的に示唆し、そこに潜む力学的構造を部分系への分解により説明した。この部分力学系への分解については、渦糸系の持つ群作用の対称性から、任意のN点渦糸環に対して、Nの約数に応じた不変力学系が存在することを数学的に示すことに成功した。本結果は現在投稿中である。 数値的研究においては、回転の効果として一定渦度を持つM個の渦帯を球面上の緯線に沿って配置したものを用い、そこでの渦糸環の運動を考えた。理論研究において極渦を回転効果としたが、これは強さが固定され、さらにその位置も固定されていることから、渦糸環の運動がおこっても回転の効果が変化しない片方向の相互作用であるのに対して、一定渦帯の場合は渦糸環の運動にともなって渦帯の構造も時間発展するので双方向の相互作用が起こる系である。数値計算によれば、渦糸環の運動は相互作用する渦帯の存在によって、全体が極の方向に移動しながら、渦糸環自身の相対的な回転方向がロスビー波の影響により時計回りになったり反時計回りになったり、周期的に変化することがわかった。これは、極渦の場合とは異なる挙動であり、回転効果の理論的取り組みには新たな要素を考えることが必要であることがわかった。 また成果発表および研究討議のためにSIAM Conference on Applications of Dynamical Systemsに参加した。
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