100ケルビン・0.1テスラの高温低磁場で使用可能な固体偏極陽子標的と、入射核破砕反応で生成される不安定核ビームを用いて、陽子と中性子過剰核の弾性散乱における余剰中性子効果を明らかにすることが本研究の目的である。平成17年度は、陽子-ヘリウム6核弾性散乱の偏極分解能測定と固体偏極陽子標的の性能向上に向けた開発を行った。 陽子-ヘリウム6核弾性散乱の偏極分解能測定は、理化学研究所の入射核破砕片分析装置RIPSで生成された核子当たり71MeVのエネルギーを持つヘリウム6核ビームと固体偏極陽子固体標的を用いて行われた。新しく導入された単芯線型ワイヤ検出器とヨウ化セシウム検出器で反跳陽子の検出を行うと同時に、多芯線型ワイヤ検出器とプラスチック・シンチレーション検出器で散乱したヘリウム6核を検出し、両粒子の粒子同定と飛跡から弾性散乱事象を弁別した。得られた偏極分解能に対し光学模型による理論解析を行い、ヘリウム6核のスピン軌道ポテンシャルが通常の核に比べて外に広がっている事を見出した。今後理論研究者と共同でより詳細な理論解析を進める。 固体陽子標的の開発では、主に3つの進展があった。まず、核磁気共鳴用コイルと回路の最適化により、パルス核磁気共鳴法による陽子偏極の反転に成功した。これにより従来に比べ高効率で、系統誤差の小さい散乱実験が可能となる。次に、光ポンピングやマイクロ波照射のパラメータの最適化を詳細に行うことにより、陽子偏極度の向上を実現した。核磁気共鳴信号の比較の結果、偏極度は約2倍に増大していると推定される。最後に、核磁気共鳴と陽子-ヘリウム4散乱測定を同時に行うことにより、陽子偏極度の絶対値を初めて決定した。偏極度の値は最大で20.4±5.8%であった。 平成17年度後半には、来年度実行する発光ダイオードによる光ポンピングの準備と、陽子-ヘリウム8弾性散乱実験の準備を進めた。
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