グラファイトおよび半導体という異なる2つの2次元電子系において、その高磁場中における特異な電子状態-量子ホール状態と端状態-を、超低温走査トンネル顕微/分光装置(ULT-STM/STS)を用いて実空間観測による研究を行っている。 高配向性熱分解グラファイト(HOPG)試料において、原子数個程度の大きさの格子欠陥周辺で磁場中の電子状態密度を詳細に調べ、ランダウ準位間のエネルギーで観測される電子の局在状態について精密な解析を行った。その結果、クーロン引力型のポテンシャルによって縮退が解けた波動関数とそのエネルギースペクトルに電子の有限寿命の効果を考慮することで、状態密度分布を半定量的に説明できることが分かった。さらに、Arイオンスパッタで人工的に多数の欠陥を作った表面上でSTS観測を行ったところ、ランダウスペクトルの振動に対応した多数の局在-非局在状態の観測に成功した。欠陥のポテンシャルの深さや形状に対応して基底状態と励起状態が重なり合った特徴的な局在状態を示すということが実験的に明らかになった。これはHOPG表面上で量子ホール状態が実現し、それを反映した局在-非局在状態をSTSで初めて実空間観測した結果であると言える。 一方、分子線エピタキシャル法により成長させたInAs薄膜半導体2次元電子系試料においてのSTS観測も行った。2次元電子系の存在するエネルギー領域ではランダウスペクトルが観測されたが、350meVまでの高エネルギー領域では磁場によらず約60meVのエネルギー間隔で振動するスペクトルが観測された。薄膜成長条件を変えた試料でSTS観測を行った結果、この振動スペクトルが薄膜と基盤の界面に形成されるこの系に特有のポテンシャル障壁に由来する、電子の透過確率の振動を反映した結果であることが分かった。
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