グラファイトおよび半導体という異なる2つの2次元電子系において、その高磁場中における特異な電子状態-量子ホール状態と端状態-を、超低温走査トンネル顕微/分光装置(ULT-STM/STS)を用いて実空間観測による研究を行ってきた。 昨年度までに高配向性熱分解グラファイト(HOPG)試料表面上の原子数個程度の大きさの格子欠陥周辺において、磁場中ではランダウ準位間のエネルギーに局在状態が形成されていることを実空間観測し、それが、クーロン引力型のポテンシャルによって捕獲された電子系として、状態密度分布の理論計算結果と半定量的に一致することなどを明らかにしてきた。このグラファイト表面上の量子ホール効果的なふるまいをさらに追求し、より理想的な2次元電子系上での電子状態の観測を行うため、昨年度より、バルクのグラファイトから単層のグラファイトシート(グラフェン)を作製・抽出する作業に取り組んできた。マンチェスター大学のグループが行ったミクロ劈開の方法を追試した結果、今年度初めてシリコン基板上にグラフェンを作製することに成功した。これが数層ではなく、"単層"のグラフェンシートであることを、AFMによる厚さ測定、並びに高磁場中の2端子伝導度測定により行い、グラフェンに特有の半整数量子ホール効果を確認できた。作製したグラフェン試料(最大でも数十μm程度)の低温・高磁場中でのSTM/STS観測を目指し、STM探針をアプローチさせるための粗動機構の改良と、金蒸着膜のガイドラインを試料周辺に作製する微細加工技術の開発を行ってきた。低温・磁場中でのグラフェンSTM/STS観測が現在進行中である。
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